とっぷ壊殻の海ノ物語遊戯王BrowsingU


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#044 別筆メモ

p.28 1コマ目:ネット上の書き込み画面

@噂のDMB買ってプレイした!
 超オモシロかったー!

 そのあと寝て Dモンスターの出る夢 見たんだけど。
 … なんか、DMBに比べて地味だった。

A俺もDMBやった後に寝て夢を見た。
 モンスターになって、空を飛んでた。

B私もDMB買ってプレイしました。
 だけど、別にその日は夢とか見なかったです。

C俺もDMBやった!
 やりまくって、DMBの夢見たのかなー、って思ってたけど、
 確かにDMBと比べると、モンスター達が大人しかった。

DDMBと夢?
 見たよー。

 リアルな夢だったけど、DMBに比べて見劣りする事色々、って感じ。

E自分の持ってるカードのモンスターになってました。
 火を吹く経験はレアだったのかも\(^o^)/ 

F説明書には ああ書いてあったけど、面白かったのでついつい3時間ぐらいプレイした。
 したら眠くなったんでスグ寝たけど、その夢って言うのが確かにDモンスターの
 出て来る夢でしたね。


p.35〜41〜 明日香と十代、車内での会話 【2018.1.31.Wed】 (分速66.6mとして 橋の前で約3分) 「さて……、1から話すと長いのよねぇ」車の発進するのと同時に明日香が言った。 「貴方、ランサーズと次元戦争について、何処まで調べたの?」 「……、話すより、コイツを見てもらった方が早いかな」  少し間を置いた十代が、再びバックからノートパソコンを取り出し、開く。 「数ヶ月前、この街で世界最大のデュエル大会が行われたらしいんだ。  実際は何年も前から行われていたらしいんだけど、俺、どういう訳か1度も聞いた事 無かったんだよな」  画面に表示された動画オブジェクトをクリックする前に、前置きのように彼は言う―― そんな面白そうな大会、自分が見に行かない筈が無いのに。 「……、先にその動画を見せて頂戴」  明日香が言い、嗚呼、と十代が 動画を再生すると同時に、パソコンの画面一杯に拡大する。 そしてそのパソコンを明日香の方へと手渡した。受け渡された明日香が膝に置く。 『突然ですが、大会責任者を代表して、此処で、皆様に重大な発表をさせて頂きます』  画面で喋る女性を見、明日香が「赤馬日美香……」と呟いた。  隣で明日香を見ていた十代が頷く。 『舞網チャンピオンシップは、本日 正午を以ちまして、中止とさせて頂きます』  一緒に録音されたらしい、画面内部の女性の本来の聴衆らしい者達の声が、驚きの反応が暫く在った。  明日香は表情をわずかに険しくするのみだ。 『チャンピオンシップ中止の理由は、バトルロイヤルの最中に、我々の世界に対する敵対勢力が、 襲来してきた事に在ります。  それは想像を絶する、別次元からの侵略者であり、彼らは、我々が住む次元世界への侵略を意図し、 その先兵を送り込んできたのです』  明日香の顔が、また一段階険しくなった。 『彼らはデュエルモンスターズカードを、武器として使用し、召喚した、リアルソリッドビジョンによる モンスターで、襲い掛かってきました。バトルロイヤルをリアルタイムで中継しなかったのは、この舞網市に、 いえ、全世界の人々に、パニックを引き起こさない為の処置であった事を、どうか、御理解頂きたい』  車が右にカーブする。  真剣に見ている明日香の隣、十代も何も言わずに待つ。 『…では、ほんの一部ですが、実際の映像を御覧下さい』  画面の中で、信じられない事が起こり――明日香がハッと息を呑む。  いやその前から驚いたようだが、続く映像からも目が離せない様子だった。 『な、なんだよあれ!』『一瞬でカードに』 『そうです。これが彼ら、アカデミアの手口なのです。  デュエルで相手を倒し、情け容赦なくカード化するのです!』  アカデミアという言葉を聞いた時、明日香の顔が更に険しく――  そして、苦しみと悲しみを増した表情になった。 『しかし、御安心下さい。そんな傲慢な侵略者共も、バトルロイヤルに参加した勇敢なデュエリスト達によって、 撃退されたのです。完膚無きまでに』  また画面が変わり、仮面を被った兵士らしき者達や、それと戦う少年達の姿が映し出された。 「――素良……」  切り換わる映像の一つを見て、明日香が不意に、気付いたように呟く―― 「! 知っているのか?」  十代が訊いたが、それより先に、画面の中の女性の声の方が響いた。 『彼らこそ、舞網市を守った英雄! わたくしは、ランス・ディフェンズ・ソルジャーズ、即ちランサーズの 称号を贈り、その栄誉を讃えたいと思います!』  画面の中に、先の戦いに居た少年達が、並んでいるのが見える――  明日香はそれを、無言で見詰める。 『ランサーズ諸君の活躍により、ひとまず危機は去りました。  しかし、敵は何時また、襲い掛かってくるか分かりません。  それに備える為にも、今後は、自分の身は自分で守るという気概のもと、より一層のデュエルの鍛錬に励んで頂きたい。  その為の場所とカリキュラムは、我が、LDSが提供しましょう。次のランサーズに、貴方がた1人1人が成るのです!』  またも聴衆の声が入る一方で、対向車が来たのだろう、前方が明るくなってきた。  それに気付いたのか、明日香がパソコンから顔を上げ――すれ違う車へと首を90度近くに回し、その間にハッと息を呑む。 「赤馬社長!  運転手さん、悪いけど追い掛けて下さる?」 「はっ」  その時には、動画の中でその青年――そう、赤馬零児が喋り始めていた。 『世界は一変した。もう以前の安穏とした平和は、過去の物と成った。  今や戦いの時代に生きている事を認識せよ。全世界のレオ・デュエル・スクール、LDSは、 本日よりランス・ディフェンズ・ソルジャーズとして、防衛の最前線に立つ。  そしてこの赤馬零児も、此処に居るランサーズと共に、打って出る。  ランザーズとは馬を駆り、槍を掲げて敵へ突っ込む槍騎兵の事。  我々は必ずや敵を壊滅する事を、全世界に向けて此処に約束する!』 「嗚呼……、言われてみれば同じ声だったかなぁ」  画面で力強く演説した青年、それに続く聴衆の歓声を聞きながら、十代が言う 「そうね……、次元戦争が終わったから。  彼も丸くなったのかも知れないわ」明日香が目を閉じ、息をつく。  まさか、この青年が、本日エンタメデュエルの最中に、ノリよく視聴者クイズを許した人間であるなどと、 誰が想像できるだろう。 「……、その次元戦争って奴が始まる、或いは、このランサーズが参戦する――直前の動画、って、 考えてイイんだよな? この記録映像は」 「――ええ。そうだと思うわ」落ち着いた様子で、何処か肩をすくめるように、笑みすら浮かべて彼女は言う。 「明日香……」  何を知っているんだ、何が何処でどうなっているんだ――そう訊きたい十代だったが、 余りにも情報が断片的過ぎて、彼にはどう訊いてどう理解すればイイのか、サッパリだった。  …車が橋を渡り終え、陸部の方に入っていく。 「――結論から言うわ。  彼らランサーズが攻め込んだ、最終目的地……。  つまり、赤馬日美香の言った別次元の世界、って言うのが、融合次元。  10数年前のデュエルアカデミアだったのよ」 「何だって!?」  不意に語り、其方を見ずに言った明日香に、十代が思わず声を上げた。 「貴方が入学する、ずっと前ね……。Dアカデミアは、とある目的の為にデュエル戦士を養成する、 兵士の訓練場だった。そうして別次元に侵略した結果、返り討ちに遭い……。……、スグの事ではないけれど。  ――ともかく、この舞網市における数ヶ月前、ランサーズはDアカデミアにやってきて、次元戦争を終わらせたの。  ……まぁ実際に何が在ったのかは、直接は見てないから、話すにもこれ以上話しようが無いけど」  ――まさか、その数年後に 今度は自分達が、また別の世界に行くような破目になるとは――。 そんな事を思いつつ、明日香は前方の車窓を見た。 「そうか……、Dアカデミアでそんな事が在ったのか」 「鮫島校長が赴任する前よ。ゼロ・リバースよりも前の……、そう、榊遊矢君がプロデュエリストになる、 ちょうど直前の話になるの。  彼が赤馬零児君にプロテストを受けた時の動画なら、もしかして在るんじゃないかしら。  私ナマで見たんだから」  少し自慢気味に言った後、明日香が、検索しろとばかりに十代にノートパソコンを返す。 「榊…、遊矢……」打ち込み掛けて、十代はその発音の読みの候補がズラリと表示された事に気付く。 「――なぁ、『ユウヤ』ってどんな漢字書くんだ?」 「遊ぶに、矢印の矢よ」  言われて、十代がキーボードを叩き出す――  検索結果が出たと思った瞬間に、乗っていた車が大きく曲がった。  何時の間に減速していたのか、そのまま、特徴ある形の建物が在る敷地内――LDSの入口に向かう。 「……、見るのは後にした方が良さそうね」「ちぇっ」  明日香が言い、十代が肩をすくめる振りをした後 ドアのノブに手を掛けた。。  一足先に停車した車、それから降りていた赤馬零児が、明日香と十代がその車から降りて 自分に近付いて来るのを待って、言った。 「……ワザワザ追い掛けてきたと言う事は。  私に何か用ですか?」
p.46〜〜 【2.5.Mon.】  車が走り出したのを機に、十代は再び 開いたノートパソコンの画面に表示された、 検索結果の動画サムネイルを見――、そして呟く。 「あ、この動画は見た……って言うか、コレで『アカバレイジ』と『サカキユウヤ』の事は知った」 「そぅお?」 「国外のネットで見掛けたから、漢字の綴り分からなくって……。  それでまぁそのままにしてたって奴だ」  動画のアップデート期日は、数ヶ月前、年の変更する前である――この十代おとこならその間に、 大半の事は忘れてしまっていてもおかしくないか、と少々明日香は考えた。  ――だがそれは実際にはこじつけであり、真実は――… 「――まぁ、面白かったからもう一回見てみるか」 「……ええ」  画面一杯に動画化が拡大され、その中で景色が、観客の居る状況スタジアムからファンキーなパステルカラー中心の舞台ステージに変わる。 『戦いの殿堂に集いしデュエリスト達が!』 『モンスターと共に地を蹴り、宙を舞い!』 『フィールド内を駆け巡る!』 「見よ! これぞデュエルの最強進化形!」二人の口上に合わせて、十代が片手拳を握り締めて、 何時の間にか喋っている――「デュエル!」  画面の中で零児が口と手を動かし、そのあとターン宣言した遊矢がカードを1枚 Dディスクに張り付けた。 『クワァーッ!』  アヒル型のモンスターが出現し、レベルATK攻撃力が表示される。 『…自分fにEMが居る時、手札から、EM、カードバードを特殊召喚できる!』  遊矢が2枚目のカードをDディスクのプレートに置き、先とは違う姿の鳥と、そのレベル、攻撃力が表示された。 『ダックディーラーの効果で、このカード以外のEMを召喚・特殊召喚した時、デッキから1枚ドローできる!』  言いながらその通りにした遊矢が、引いたカードを見、すぐさまそれ、『ペンデュラム・カード・バースト』を発動させる。  ダックディーラーとカードバードを破壊するのと引き換えに、2枚ドロー。  そしてまたスグに2枚のカード、『EMオッドアイズ・プリースト』と『EMイグニッション・イーグル』を見せたのち、  1枚ずつ自分のDディスクのカードプレートの端に置く。 『ペンデュラム召喚!』遊矢が片手を揚げ、カメラワークがその上方、光の柱に挟まれた位置に移っていく。 「そうそう、俺この動画でP召喚知ったんだよな!」  その時の事を思い出してか、十代が興奮したように言う。  画面の中では、次々と、総勢5体ものモンスターが出現する事になった――後で知った話だが、 いや知らなくても分かる、『P召喚』最高峰、難易度MAXの5体同時召喚だ。(当時) 『まだまだぁ! お楽しみは、これからだ!』  そう言って、遊矢は召喚したモンスターと光の柱に居るモンスターとで、融合、シンクロ1回ずつを行って、 残るうちでレベル4の2体によってエクシーズ召喚を行った。  最初のP召喚で残った、レベル7の紅いドラゴンを挟んで、3体のドラゴン――計4体の姿が、 『榊遊矢』のやや上空にて静止する。 「……やっぱ此処見るだけでも凄ぇよな」 「そうね」  言いながら、明日香が軽く前方の方を促した。車が先程 向きを変え、つまりはホテルの前に着いたのだ。  少し惜しいと思いつつ、十代は一旦パソコンを閉じる。  階段を玄関フロントからの光が照らす建物の前、停車した車より十代と明日香がそれぞれドアを開けて外に出る。 「……有難うございました。では」 「はい」  簡単に運転手と挨拶を済ませ、明日香は車が再び走り出すのを見る――十代が隣でそれを待つ。 「だけど……、ちょっと変だよな」歩き出し、自動扉が開くのを待つ為に止まった、その際に十代が口を開いて首を傾げた。 「何が?」 「だって、あんな凄いデュエル……。  いやデュエル自体も凄かったんだけれど」  屋内に入り、十代は、言いたい言葉をまとめ上げる為にだろう、数秒ほど考える素振りを見せた後。 「何で……、他のデュエリスト達は、アイツらみたいに複数の召喚を使いこなせなかったんだ?」 「……」  世界中を旅しているデュエリスト、十代である。融合召喚、S召喚、X召喚の存在そのものは、 以前から既に知っていた。  ――しかし、それらを同時に行うデュエリストと言うのは、今まで見た事が無かったのである。 「あの動画を見るまで、ずっと気付かなかったんだけど……。みんな、どれか1つの上級召喚だけに特化してるよな。  アドバンスや儀式にしたって、使われない処じゃホントゼロって言うか――……」 「ええ――」 「どうして気付かなかったんだ? そりゃあ慣れた召喚の方が、やり易いって言うのも在るっちゃ 在るんだろうけどさぁ……」  ――それでも、全員が全員、一つの召喚方法だけで上級モンスターを呼び出していたと言う事態は、変だ。 「そうね……」言外の言葉を感じつつ、明日香もまた、言葉を選んだ。 「さっき、貴方――。どうして舞網チャンピオンシップの事を、今まで知らなかったのか、って言ってたでしょう」 「嗚呼」  明日香が、一旦ロビーを見回してから、話をするに適当そうな椅子とテーブルを見付け、十代に目で促してから、 其方に移動し始めると同時に、言った。 「その答えが、それよ――。世界は4つの次元、4つの召喚方法に分かれていた」 「次元……?」  明日香が椅子ソファーに腰を降ろし、十代も向かい合う席に座る。 「実際には、今も分かれてるんだけれど……。  一旦一つに成った事で、今は、前よりもお互い近付き合ってるって言うか。  壁が無くなったみたいに、ある程度 行き来できる状況になったって言うか――。  ――まぁ、半分分かれてて半分繋がっている、みたいな状態だって考えていて頂戴」 「……、分かったけど、何がどうしてそうなっているんだ?」  何かが現在半端である、と言う点だけ理解して 十代は話を促した。 「……、気が付くと、私達は4つの次元のどれかに居た。其処へ向かうように仕向けられていたの。 ――気付かずに。…そして他の召喚方法の事は、忘れていた」 「……」 「その事を最初に教えてくれたのが、プロフェッサーよ――。  ……何かがおかしいのは分かってた、でもそれが何か分からなくって、みんな混乱していたわ。 そんな私達に、記憶の部分部分が欠けている――。そうハッキリとした答えを教えて下さったのが、 プロフェッサーなの。……それでみんな、かなり納得してようやく安心出来たの」 「……、記憶の部分部分が、欠けている――」  十代が考え込むように、そう言葉を繰り返した。 「――ええ。何を忘れているかは多少、個人差が在った事だけれど……。  それでも答えはただ1つ、ずばり、『融合召喚』以外の召喚方法に関する事よ」 「……、融合召喚以外の、召喚……?」  ええ、と明日香は頷いた。 「シンクロ、それにエクシーズ……。そしてアドバンス召喚を含むスタンダードな召喚方法。  それらを私達は忘れていた。酷い時には、通常召喚さえもせずに、モンスターを手札からの『融合』だけで召喚していた」 「……、他の召喚方法の事を、忘れて?」  十代の言葉に、明日香はコクリ、とまた頷いた。 「次元戦争の後、世界は一旦繋がって……。今みたいに、半分半分って感じの状態になってた。 ――だけど、プロフェッサーが居なくなって……。  ……、ゼロ・リバースのせいで戻って来れなくなったらしくって、それで……。  気が付くと、私達は融合召喚だけを使い、融合モンスターだけが上級モンスターだと思う状態に陥っていたわ。 ……一時期使った儀式召喚の事も、私はやがて忘れてしまった」 「……」 「アカデミアを卒業して、知識としては、他の召喚方法が在る事を知った……いえ、思い出した。けれど、 実際には見る機会が無くって、やがてまた忘れ去っていたわ……数ヶ月前、再び次元戦争の影響が、この世界に現れるまで」 「……」 「その当時、私は全てをこの目で見ていた訳じゃない――。だから、どうしても伝聞になるんだけれど。  プロフェッサーは、4つの次元を1つに戻そうとしていたわ。でも同時に、そうされればある悪魔が 復活するかも知れない、とも言っていた。――実際にその悪魔は復活し、世界を滅ぼそうとしていた。――らしいわ」 「世界を?」 「数ヶ月前――世界各地で、震度2から5までの地震が起こった。  一時間程度の間に、いっぺんにね」 「嗚呼……、奇妙っちゃ奇妙な話だよな」  最初はただの地震と思った。  だが後で、『世界』の各地殆どで、いや地球上全てでその短時間内に、大なり小なり『振動』を 起こしていたと言う事実が分かったのだ。 「その時……、そのあとよ。  私が何かを思い出したような気がしたのは。  スグには分からなかったけれど――、程無くして、デュエル協会の新規一般会員に、つまり新しい プロデュエリストに、榊遊矢、ってその名前の彼が登録された、って事を知って――。  それで全て、思い出したの。十数年前の事、プロフェッサーの事、次元戦争の事……。  彼と、そして遊勝先生の事も。――私の知っている範囲でだけどね」 「……、Dアカデミアの教師だったのか? あの人」  ううん、と明日香は首を横に振った。 「私はプロフェッサー達のやり方に反発して、一度アカデミアを離反したのよ。  その時に、実はプロフェッサーの事を止めに来た、榊遊勝さんと出会って……。  暫く彼の遊勝塾で、身を隠しながら彼にデュエルを学んでいたの。  ――そして、遊勝先生共々Dアカデミアへ向かって戦ってたんだけれど、負けてカードにされちゃったみたい。  気が付くと、巨大なドラゴンとそれと戦っているモンスター達の姿を、みんなで見ている中に居たわ。 ――それは、エクシーズ次元で、人々をカード化していたのを返り討ちに合って、自分達もカード化された Dアカデミアの生徒で……、万城目君も居たわねぇ。  そして私達は、そのデュエルを……。  そう、そのデュエルモンスター達の戦う『デュエルモンスターズ』の様子を見ていたわ。  遠目からだったから、実際のプレイヤーが誰と誰か、って処までは分からなかったんだけれど……。 ――それでもあのドラゴンが、かつてプロフェッサーの言っていた悪魔、『覇王龍ズァーク』だ、って事は分かった」 「……、『覇王龍ズァーク』って。  最近ショップで売ってるパックの……」 「――ええ。目玉モンスターになっているのよねぇ 「…………」  そのパッケージ写真を思い出しつつ、「何がどういう経緯になったらそういうオチになるんだよ」、と言った十代に、 明日香も「さぁ……。言ったでしょ、あたしは全部知ってる訳じゃないって」と、半ば放り出すように言い放った。  ――つまり分からない処は適当に流しておけ、と言う意味だ。 「それでも後から分かったんだけど…、覇王龍ズァークと戦っていたのは、『ランサーズ』と、 それに協力するDアカデミアや、他の次元から来た同志、何人かだったって言う事よ……。そして彼らは 覇王龍ズァークを倒し、世界が光に包まれて……。デュエルの最中には、何だか空に街が浮かんでいる 姿なんかが幾つも見えて、色々と信じられない状態になっていたんだけど……。そういう異常も収まっていて、 世界が救われたんだって事を知ったわ」 「……、そう言えば、短時間だけどその時は凄いパニックになっていて……。  世界が終わりだとか滅びるとか、そんな変な情報までネットでバンバン飛び交ったんだよな。 ――後で、単にみんな混乱してただけだったのかな、とか思っていたけど」  その騒ぎは、余りにも突然に起こった割に――、まるで潮が引くように、すぐに収まりそれきりになってしまったのだった。 「そうね――、でも本当は決して大袈裟な事じゃあなかったらしいのよ」  一旦口をつぐみ、明日香は少し、考えた―― 一体何処までを、彼に話してイイものやら。  覇王龍ズァークの眷竜達と、榊遊矢が現在所持する4体のドラゴン――その酷似性、関連性についての 話と結論を述べるのに、果たして十代がついてきてくれるか。 「……、ランサーズって言うのは、プロフェッサーこと赤馬零王の野望を阻止する為に、その息子である 赤馬零児君が結成した、スタンダード次元のデュエリスト達の集まりで……。  スタンダード次元って言うのは、プロフェッサーがやってきた世界の事で、其処ではDMのスタンダードな 召喚方法が行われていたから、プロフェッサーは其処をスタンダード次元と名付けた、と言って……。 私達の世界の事は、融合召喚のみに偏っているから融合次元、と名付けたと言っていたわ。おんなじように、 シンクロ次元、エクシーズ次元と名付けた世界が在って……、在る筈だそうで。  だけど本当は、1つの世界だったから、それを元に戻さなければならない、でないと、この不安定な 世界はもっと酷い事になる、と言って……。  だけど、1つになったらなったで、覇王龍ズァークが再び復活してしまうかも知れない、って言う事も 分かっていた。だからその戦いに備えて、私達はデュエル戦士としてアカデミアで日々鍛えていたんだけれど……、 さっきも言った通り、記憶が断片的に無くなってて。――それは即ち『覇王龍ズァーク』の復活を阻止する 力の影響で、『覇王龍ズァーク』に関する記憶を失ってしまったからなんだけれど……。気が付くと目的と 手段が入れ換わって、アカデミアは4つの次元を1つにして、理想郷を作ると言う名目の為に、他の次元の 人々を襲ってカード化する、そんな酷い侵略者集団に成り果てていたのよ……」 「……、明日香」  その事を思い出して苦しんでいるらしい彼女に、十代は戸惑いながら 自分から声を掛ける事も躊躇った。  下手に訊いたら、彼女の古傷を抉る事になるのかも知れないし、十代自身、情報が断片的過ぎて、 何処からどう質問すれば自分が理解できるか分からない。 「……、ランサーズは、そんなアカデミア軍の横暴を止める為に、戦いながら他の次元を回って……、そして 融合次元に辿り着き、そして赤馬零王や覇王龍ズァークと戦った――、らしいわ。私や遊勝先生も含めて、 ランサーズ側とプロフェッサー側がDアカデミアの各所で混戦になっている隙に、覇王龍ズァークが 復活したらしくって、あとプロフェッサーも次元を一つに統合する装置を起動させていて、一つに成って いたんだけれど、それは明らかにグチャグチャで、幾つもの場所を無理矢理くっ付けたかのような酷い状態で……、 世界が終わりなんじゃないかと確かに誰もが思っていたわ。――推測だけど、覇王龍ズァークが復活した事で、 プロフェッサーと零児君は和解して、一緒に協力して『覇王龍ズァーク』に立ち向かっていったみたいね――。  彼らが持つ次元移動技術の事は、私は他の生徒と別の次元に行くシステムを使ったり、『次元回廊』の ソリッドビジョンから遊矢やジャックが出入りしたりするのを見た事は在るけれど。  システムの原理だの扱い方だの、そういう事や専門的な事はまるでサッパリな状態だから――。  その辺は、明日あした零児君に会って、直接話を聞いて頂戴」 「嗚呼」  直接と言っても、オンラインゲームの内部でだが――。  そんな茶々を思いつつ、十代はふと、ある事に気付いたかのように言った。 「なぁ――、DMブラウザって。  俺達が子供の頃にも在った筈のゲームなんだよな」」 「ええ――、そうよ」 「それを忘れていた、って言うのは、さっきのデュエルで言っていた、歴史未来を変えない為の記憶の封印、って奴なのかな? 覇王龍ズァークが倒されたのは、もう数ヶ月も前の事なんだろ――」  それを封じる為の力と、未来それを変える為の力。 「……、その関連性が何処まで在るかは、私にもよく分からないわ。  ――ただ、あのデュエルを見ていたって言うなら聞いてたとも思うけど、私達の居た世界、融合次元は この時代、ペンデュラム次元から見て過去だった。P次元って言うのは、スタンダード次元が今はP召喚 中心だから、P次元って言うように変わったらしいんだけれど――、ともかく」 「……、10数年前と、現代とで――。  当たり前だけど時間が空いてる。  その間に、何か起こらないように――。  俺達は『未来』に関する事を忘れた?」 「そうね――、そしてこの時代にとっては、覇王龍ズァークの復活や、次元統合・戦争の諸々は、数ヶ月前の 事だった訳だけれど。  その時に向かって――、一旦は一つに成っていた筈の次元が、また4つに分裂してしまっていた、と 考えれば辻褄が合うわ。  未来で起こる筈の出来事だったから、私たちはやがて覇王龍ズァークの事を忘れ、次元戦争の事を忘れ、 遊矢や遊勝先生や、零児君やプロフェッサー達の事も忘れ、柚子や素良達の事も忘れてDMBの事も忘れていた。  ――嗚呼、素良って言うのは、さっきデュエルで思い出せた、遊矢と仲が良かったって言うDアカデミアの生徒の1人なんだけど」 「……、お前が忘れてるって言っていた、プロフェッサーのようにDアカデミアを離れて何故か、戻ってこなかった、ってぇ奴か」 「ええ、確かその一人――。  元々仲が良かったって訳じゃないけれど、遊矢のデュエルを一緒に見て、それで遊矢や柚子や先生の話題で 話すようになって、また他のみんなともよく喋るようになって――。  彼らがまたデュエルアカデミアに来た時は、そりゃあ大騒ぎだったかなぁ――。  遊矢と零児君ともう一人とで、屋外でデュエルしたんだけれどね。  見物に生徒達が集まってきて、モンスター達が動き回ってて、直接攻撃ダイレクトアタックを避けて人混みに入り込んだ人が居たから、 みんなで逃げて、もうしっちゃかめっちゃかだった訳よ。  ――楽しかったな」  訳の分からない説明をした後、明日香は懐かしそうに呟いた。  その様子から、想像は出来る――少なくとも、その感想通りに『楽しく』て、そして貴重な時間だった。 「……、見付かるとイイな、お前の友達」  「――ええ」  其処で話を終わらせて、二人はカウンターの方に向かった。 ======================================== p.35〜、46〜  ……長い(汗)  殆ど短編小説のボリュームだけど メモはメモ。



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