長髪IF前奏(inユリアシティA)
『俺とお前、どうして同じ顔してると思う』 レプリカは動揺しながらうそぶいた――屑が。 お前の表層意識ぐらい、コッチは全部お見通しなんだよ。 『――嘘をつくなぁぁあーーっ!!』 抜いた木刀を振る前に、俺の詠師剣が奴を捕らえる。 『閃いたぜ!』『!?』 直前で変化したレプリカの思考に、動くのが遅れた――振り下ろした剣を避けられて、無防備なまま無様に三発ほどの連撃を食らう。 『閃光、墜刃牙!』『うぅっ……!!』 同時に烈破掌を放ち、互いに距離を取る――『俺は、お前なんかじゃない!』 言い返す。――俺のクセに。 ――俺の体から取った 『閃いたぜ!』再び活路を見出したように、嗤う――そんな 『お、俺がぁっ……』 叩き付けられた激痛に膝を付き肩を震わせながらも、俺はレプリカの乱れている呼吸を聞いていた。――同じだけ俺の呼吸と鼓動も乱れている。 『こんな屑レプリカに、俺が……』 『劣化品だ。――だからこそただ一度の「時」のために、「器」は完璧に (くっ……!) 「これじゃあ俺の家族も居場所も、全部奪われちまう訳だ……自分が情けねぇ……!!」 呟き、もうこのままレプリカに『意識』を喰われるのかと、そう俺が考えた時の事だった。 ――ドサリ。自分の身が倒れる感覚がして、しかし、膝を着いていた体から急速に痛みが引いていく。 (……? ――!) 回復した理由はすぐに分かった――レプリカが気を失って倒れていたからだ。 生き物は眠りに着くと 『……ふんッ。屑が……』立ち上がり俺は剣の柄を握った。 ――このまま此処で殺してやる。 ( ――コイツは、 |
『導師イオン! 何時こちらに……』 『先程です。……テオドーロ市長にお話が在るのですが』『はっ』 『イオン様、此処に来た事在るんですかーぁ?』 えぇ――そう言って導師は何処か済まなさそうに目を伏せた。 アニスが ――と、ガイがいきなり『ルーク!?』と声を出し、港の方を振り向いた。 『ガイ、どうかいたしまして?』『……ルークが……』 ナタリアの問いに言いよどむ。 ……と誰からともなく沈黙する。 『きっとまた何か馬鹿みたいに自分勝手な事を言って、それでティアに注意されて叱られて喚いているとかそんなんだよ』と、アニス。『関わりにならない方がイイんじゃなーい??』 『ですが、本気で逆上してティアに暴行でも始めたら、彼女の力ではルークに対抗出来ないのでなくって??』 はぅあっ! ナタリアの言葉にソレは大変だと言って目を白黒させる。 『ナタリア! ……ルークは其処まで馬鹿じゃない、婚約者の君が何を言い出すんだ!?』 『あ……』 そうですわね、と言った処に分かりませんよ、と冷静なる懸念の声が響く。 ――『私』の。 『常日頃ミュウを乱暴に踏み付けたり蹴り飛ばしたり、ルークの残虐性は元々目に余るモノが在る筈ですから。ソレが何らかのキッカケで、対象が人間に成り変わっても……』『お、オイ!』 『ルークはそのような性格では……』 『分かりませんよぉ〜。今まさにそんなキッカケが在るかも無いかも知れない最悪の状態じゃないですか』 ……っ! とガイ、 『……確かに今こそ状況が悪い。 自分の事を棚に上げ、ティアに八つ当たりをして木刀でビシバシ彼女の体を打ち叩いて……』『ま、まぁっ!!』 『痣ぐらいで済めばイイのですが、彼の 『『『!』』』 一瞬想像をしたのだろう、まずはナタリアが走り出し、『おいっ! そんな筈は無いだろう!?』――とガイが言いながら走っていく。 『アニス、僕達も』『え? ……あー、大佐ワルノリし過ぎッ!』言いながらアニスが待って下さいよー、と導師イオンを追っていく。 『やれやれ……』私は肩をすくめてから、『すいません、連れにトラブルが在ったようです』と、戻ってきたユリアシティの住民に言い、返事を言わせる暇もなく歩き去る方法を実行した。 (今の声……) ――憤慨の混じったものであった事は認めている。 (『……な』……?) 最後を聞く限り命令形の構文だった。 (……まさか、冗談が本当に成っているとも思えませんが) 唇が笑う――私の口はこういう時は嗤う。 ――今一番可能性が高いのは、最悪の――……。 ……街に ずっと大人しかったからもう何もしたりなどしないとタカをくくっていたのか。 (――どちらでもイイ。……アレを処分する事が、私の――……) 『ルーク!!』ガイの驚嘆する声が聞こえた。 |
目の前に在ったのは、全く思いもかけない光景だった。 『ルーク!!』 ジェイドの旦那が言っていた、途中から明らかにふざけていた言葉の通りでは全くない。 鵜呑みにしたナタリアを追いながら、あの二人ようやく軽口を言えるようになったか、ずっと暗鬱だった俺達の状態もようよう元に戻り始めるか――そんな奇妙な安心感を、いっぺんに吹き飛ばすような景色が港のタルタロスを遠景に在った。 『――死ねぇっ!』 明らかに気を失っていると分かるアイツを――アイツと全く同じ顔の男、六神将・鮮血のアッシュが今まさに殺さんと剣を振り上げている処だったのだ。 「ルーク!!」 俺はアッシュの剣を目掛けて飛んだ――飛ぶように走った。 アイツと同じ顔がこちらを向く、だけど俺には、ソレが全く顔のない不気味な面のように思えた――実際は奴にも、顔も感情も在ったし付き合わせた剣にも何か迷いのような震えが在ったのだという事は、――記憶に残っている。 けれどそんな事はどうでも良かった――目の前で親友が倒れている。 親友であり、主人である――本当はこの旅のドサクサに、離反して特にニ、三日前までは本気で見限って姿をくらますかどうか、真剣に悩んだ相手でもあった。 けれどそんな事は吹き飛んで――目の前で伏しているその姿に、何故いっときでも目を離したのか、どうして護ろうとしなかったのか――その考えだけに、――自分を呪った。 ――ギィン!! アッシュが俺の放った剣を受け止める――一撃、ニ撃。 床に伏したルークに刺そうとした状態だったから、刃の向きが不利な方向に曲がっている――けれど、有利に戻してやるようなツモリはサラサラ無い。 (コイツは俺の獲物なんだよ!!) 横取りされてたまるか――七年間面倒を見て、何時か、アイツから奪うために一緒に居たんだ――そうホドの復讐鬼である処の俺が言う。 ……アイツは シュザンヌ様と約束した、アイツと (俺の――たったひとりの友達なんだよ!!) 「ガイ!!」 |
わたくしの言葉に、ガイは少なからず正気を取り戻しました――『ピアシスライン!』 瞬間放った矢をよけて、二人は互いに数メートルほど距離を取ります。 『アッシュ!?』後方でアニスの驚いた声がします――私も内心驚いていました。 アクゼリュスでヴァンと共に去った彼が、どうしてこのような処に――……。 『…………』 アッシュの眼はわたくしに対して何かを言ったように思えましたが、彼はすぐにガイの方を向いたのでソレが何かを推し測る暇は在りませんでした。 『……もう終わりか?』 防戦一方だったと言うのに、挑戦的に言ってガイを煽ろうとしているのが見え透いた発言です。 ガイもその事に対し、戸惑っていたのでしょう――再び剣を構えた彼を、『待って下さい!』と、導師イオンの声が停止させました。 『ガイ、彼は……』『導師イオン!』 更にソレを遮ったのは、先程から倒れたルークの体をずっと診ていたティアでした。 『ルークの――呼吸と脈が在りません』 ガイとアニスが驚いて、アッシュでさえ一瞬意外そうな反応をしました。 『大丈夫です』そしてジェイドが言いました。 『一時的に酸素の供給方法を切り替えただけですから』 わたくしは憚りながら 死体とそうでないものが発する ティアがえっ……? と言いました。 『どういう事だ!?』そう叫んだのは、ガイでした。 『……レプリカの機能の一つです。血中 『音素乖離を始めていないのだから、崩れません――むしろ体内の細胞をフル活動させて回復している』 『安静にしていれば、大丈夫な筈です』 淡々とした導師イオンの声がジェイドの言葉を挟みました。 『何だって!?』再びガイが問い返します。 『イオン様……ん、いったいどーなってるんですかぁ!?』 アニスの言葉に少し――導師イオンが、困ったような寂しげな様相を致しました。 『レプリカ……』ティアが改めて、動かないルークの死骸を見下ろし、小さく『ソレが……』と呟きました。 |
ナタリアは、 その彼女がアッシュの牽制に走ったという事は――無意識なのか意図的に認めたくないかどうかに関わらず、『手遅れ』という判断を彼女がルークに下した事に他なりません。 『導師イオン!』 ティアが焦った声で言いました――ソレにジェイドが大丈夫です、と言いました。 ――僕達の心臓は心臓じゃない。 『イオン様……』アニスがどうなってるんですか、と訊きました。 僕は答えられませんでした――『僕』が『その事』を話すのは、教団の機密事項に属します。 『導師イオン?』『レプリカ……』 ティアが小さく呟いて、ナタリアの僕への声を掻き消します。 『ソレが……』 『……そういう機能が在ったとはな。初耳だ』アッシュが小さく呟いて、――チャキリ、と剣を仕舞いました。 『マルクトはフォミクリー発祥の地だと聞く。――詳しい事は、其処の そう言ってユリアシティの方へ移動していきます――ガイが待て、と言いましたが、お互いソレで動こうとする事は在りませんでした。 |
全く訳が分からない――事前にアッシュが言うのを聞いたとはいえ、正直な処、半分理解し難かった。 『フォミクリーは、以前言いましたが見た目そっくりの模造品を作るためのものです』 『…………』 『ホド戦争の時代まで、マルクト軍はソレで作ったレプリカ兵士を一部の戦場へ投入したり、譜術の実験体などに利用していたりしました――国際条約で14年前、生体レプリカの研究は禁止にされたのですが……』 大佐の視線を移すのに従い、私達は全員が『彼』を見る。 『ヴァンが……今回の崩落を引き起こさせるために、恐らく内密で作ったんでしょう』 『そんな!』イオン様の答えを受け、ナタリアが衝撃的な声を出す。 『それでは、此処に居るルークは……』 『……すり替えられていたんだな』ガイがようやく、手にしていた剣を腰に収めてそう言った。 『たぶん、七年前の誘拐事件の際に……』『ええ』私はハッキリ、頷いた。 『アッシュはそう言っていたわ』 『では、では本物のルークはいったい何処に居るのです!?』まだ混乱しているのだろう、ナタリアが焦燥感丸出しの声で言う。 『……見りゃ分かるじゃん。アッシュだよ』アニスが何を今更といった感じで言い、 ナタリアは『ああっ……!』と額に手を当てて倒れ込んだ。 |
『ナタリア!』ガイが思わず言い、 『ちょ――ちょっと! しっかりして!?』ティアが慌て、 導師イオンとアニスがそちらに寄って行ってはナタリア、ナタリアと声を出す。 (――棄てられたレプリカ、ですか) 哀れにも見向きもされなくなったソレを見て、私は一つ、溜め息をつく――所詮はただの。 『ユリアシティに運びましょう――何処か、宿のような処は在りますか?』 私がそうティアに問うと、彼女は『いえ、でも私の家に――』と改めて気絶者達を見下ろしました。 『分かりました。――ではガイ、ナタリアをティアの家まで運んで下さい』『何言ってんだ! 俺には無理だろ!!?』 『私が運びます。ガイはルークをお願い』『お、おう』 ナタリアの脇を抱えたティアを、『アニス、手伝ってあげて下さい』と言われた 街に着くと、先程のシティの住人がやってきて、私は導師と市長テオドーロに対面した。 『……導師イオン。良く来られました』 『詠師グランツ。御無沙汰しています』 かすかに、しかし間違いなく先にイオンの方が礼をした事に、私と付き添いで来ていたアニスが動揺した。 『グランツ……?』『ヴァンとティアの養祖父です』 ――後から分かった事だが、彼は位こそ低いが立場上 『市長、こちらはマルクト皇帝ピオニー九世陛下の名代、ジェイド・カーティス大佐です』 始めまして、と社交辞令を述べる私に老者は必要ない、と言わんばかりに『ダアトから報告は受けております』と言った。 何だか食えない感じがした――その珍しい直感が、程なく間違ってなかった事を私は知らされる事に成ったのでした。 ……真実と共に――……。 |
22:41 2009/07/06
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日付け見て分かる通り:随分前に書いた奴ですが発表の機会が無くって。
でも同時UPのルークの話と合わせて丁度イイかな、と。