Formal Justice
22:34 2010/09/03 19:41 2010/09/08 書き直し
――血飛沫が飛ぶ。
闘いの後、その場に在るのは勝者たる生者と敗者たる死骸。
「罪にはならない……か」
ポツリとそう呟いた若者に、近くに居た娘がえっ? と聞き返す。
「――いや、前……。
街の外での人斬りは、私怨と立証されない限り……」
「……嗚呼」
言った青年――ガイが思い出したように声を上げる。
「私怨ねぇ……」
「立証なんてワザワザやろうとする役人さんは居ませんから。結局無法地帯ですよね」
「……ええ。私怨と立証されると言う事も、斬った側にその正当性を認めて罪ではない、と言う事を確認するためのものだもの」
「今の法律では、悪人と言う悪人は全部保護されていると言っても過言ではないと思いますわ。だからこのような盗賊も増えるのです」
ジェイド、アニス、ティア、ナタリアの順に呟いた――最後は呟きではなく何かがズレた憤りであったが。
「良くソレで成り立ってるな……」
「預言〈スコア〉だよ。預言が悪い、って言ってる人を捕まえてれば、犯罪者の検挙率は百パーセントだもん」
「…………」
言い返す言葉が見付からない。
「でも、逃がしちまう事も在るんだろう? 預言で捕まらないと詠まれていたならさ」
「そうね。……きっとそうだと思うわ」
「そん代わり、捕まえると決まってる奴の事は地の果てでも行って捕まえる。預言を守る事が、……ずっと美徳だったんだから」
「そうですねぇ。――預言から外れると言う事は、人々にとっては在ってはならないと言う事でしたから」
――どきり。
言葉にルークの心臓が跳ぶ。
「……外れたと言う話も、一度も聞いた事が在りませんものね。――アクゼリュスの件を除いて……」
「…………」
言葉に視線が集中する、注目を受ける。
――グルグルと。
目が回りそうな感覚。
「アクゼリュスの件は置いといて……」
「怖いですわね。預言が外れたとして、ソレを知らずに犯罪者を追っていたのだとしたら」
「ええ。事実も良く確かめず、預言だけで捕まえていると言う事例も、きっと少なくは無いでしょうし……」
――何かを言わなきゃ。
そう思う若者を尻目にして、会話はどんどん続いていく。
――冤罪の可能性を食い留めるには。
――きちんと、事実かどうかを確かめて……。
預言も捜査の参考には成ります。
――ただ、ソレだけに頼らないような体制を……。
ぱくぱくぱくぱく。
口だけが動いた。
「ルーク……」
じっと見ていたガイが微笑む。
「無理に会話に加わらなくてイイぞ。アレは未来の為政者と役人の会話だ」
ポンと肩に置かれた手に、「……それじゃあ俺の未来って何だ」
「――え? いやソレは……。えーっと……」
目を滑らせてる。
「王宮で贅沢三昧。政治も犯罪者もそっちのけ……、――でしょう? 憧れの生活だけどね」
「シーッ! ……ソレを蒸し返さないでくれ」
何か気を遣われる事がメチャクチャ痛い。
俺何だ。
「――あら? どうか致しましてルーク」
「呆けてないで行きますよ。ジッと立っていたらまた盗賊か魔物に襲われる」
「大佐の仰る通りです。――さぁ、行きましょうルーク」
泣きたい処を急かされる。
見えない壁は、――巨きく、厚い。
(俺って一体何なんだ……)
――疑問だけが。
――――ただ――……。