⇒とっぷ:
壊殻の海ノ物語
奈落
フゥ……。
ティアは溜め息をついて肩を落とした。
「貴族って、みんな『ああ』なのかしら」
――だから兄さんは外殻を。
(まさか……。でも……)
+ + + + +
「……見限るには頃合いなのかな」
廊下の窓から空を見て、ガイは他人事のように呟いた。
(どうせ何時かは敵同士だ。だったら、今この機会に別れた方が……)
『そうだろ!?』
同意〈たすけ〉を求めた碧の瞳。
『俺ばっか責めるな!』
ガイはチッ、と舌打ちした。
「何時誰がお前を悪いっつったんだよ」
――馬鹿が。
独りで突っ走って……。
「……」
首を振りガイは歩き出した。
+ + + + +
「何アイツ。ちょっとでも同情して損した!」
導師イオンを部屋に入れ、簡単に其処に在る物を整理してからアニスはそう言った。
――アクゼリュスを救おうとした事。
――兵器と言われ、七年間幽閉され軟禁された状態から抜け出すために、
人々が認める『英雄』に成ろうとした事。
一度はソレが空回りした結果なら、仕方が無い、――とも考えた。
けれど……。
(――ソレを恩着せがましく言われるのは、ちょっと……)
いやちょっとどころでなくムカツク。
「……アニス。
ルークの方にも事情が」
「在っても何千人も死んだんです! ……ソレを自分のせいじゃない、みたいに……」
震えてアニスは視線を落とした。
最低最低最低最低。
「……泣かないで下さい。アニス」
イオンが悲しみと戸惑った顔で言った。
「泣いてませんっ! ……誰があんな奴の事で」
アニスが身を翻し、目尻を擦る。
「…………」
――アニスは、本当にルークの事を信頼していたんですね。
親善大使〈かれ〉に期待したアクゼリュスの民のように。
「してません! あんな奴、サイテーのサイテーのサイテーの……」
繰り返し、アニスは痛む胸に手を当てた。
――錯覚だ。
そう思った処に、イオンが手を触れてきた。
「っ……」
「ルークの事。
アクゼリュスの事ヴァンの事、今は、一人の人間として泣いて下さい」
……。
「僕も、貴方の上司ではなく導師として、其の悲しみを受け止めます」
…………。
アニスの黒い瞳が潤んだ。
+ + + + +
「うわぁぁあぁあんっ!! わあぁっ!」
何処かから泣き声が聞こえる気がする。
(あの声はアニス……)
恐らく緊張の糸がほどけたのだろう。
崩落、魔界〈クリフォト〉、ヴァンの裏切り――
大勢の屍を前にして、混乱せずこの艦〈ふね〉に乗り込んで来られただけでも奇跡だ。
(――だとしたら、彼はアニスよりも耐性が無かったと言う事かしら)
考えてナタリアは眉をひそめる。
誰よりも冷静に、沈着に人々を導くべき立場であった筈の彼が。
「……」
個室用と宛がわれた一室で、ナタリアは不意に、そのひと言を発した。
「わたくし……。一体ルークに何を望んでいたのかしら」
――初めは誰もが反対していた。
王女としての時間を削ってでも、彼の記憶を取り戻す必要など無いと。
(――けれどルークは。
約束した)
『約束』を思い出してもらうために――
『約束』を信じて。
婚約者〈かれ〉が元に戻る事を信じて。
(だから――)(でも――)
「ルーク…………」
大粒の涙がナタリアの眼から出た。
「ッ……。うッ……」
七年振りの涙が、七年の時間をこぼしていく。
+ + + + +
「――異常は無し、と……」
艦橋〈ブリッジ〉でジェイドは独りごちた。
――二度目の確認だ。在る筈も無い。
(……コレで和平へと続く札〈カード〉は無くなった。オマケに偶然とは言え、ナタリア王女も……)
(――いや。初めからそのツモリだったとすれば、すんなり合流出来た理由も説明が付く)
(お城をそう簡単に兵士達が抜け出させる筈在りませんからね。在ったら在ったで、追ってくる筈)
(全てはモースの手のひらの内。王室の後継者二人を、揃って亡き者にするのは頂けませんが……)
――だが、彼が『後継者でない』なら。
「……」
――ソレは引き金。
単なる捨て駒。
(ヴァンとモースは繋がっている??)
だとすれば――全ては繋がる筈なのに。
(……分からない。ヴァンはアクゼリュス以外でもセフィロトの封印を解いていた)
それら全てを『崩落』させるのに、――果たしてレプリカが、何体要る??
(此方の知り得る限りはルークだけ。――数を作れば、ソレだけ手間も掛かるし秘密も漏れ易い)
(モースが隠れ蓑を作っていた?? ――だとすれば可能だが、実際はそのようには思えない……)
(ヴァンが独立して、アクゼリュスでのみ特別な行動を取った……。そしてコレからも取ろうとしている)
(そう考えるべきか……? 大詠師モースが戦争を起こそうとしているのに便乗して、何か――……)
(何か、やろうとしている)
――分からない。
手元に在る情報が少な過ぎる。
(この世の仕組みと愚かさ……)
――何を、今更。
受け入れないはイイとして、ソレに逆らうために、一体何をしようと言うのか。
『ヴァン師匠〈せんせい〉が……』
『師匠を待たせる訳にはいかないからな』
『私が囮の船に乗る』『えー!?』
――情報が少ない。
最後に思い出せるのは、
いや始終『そう』であったのは、『ルーク』の前での師としての態度。
(大した演技力ですが……)
(騙される彼も彼ですね。――よっぽど……)
――ジェイドなら、カナラズセンセイヲ
「…………」
『どうしてだよジェイド!! 研究をやめるって……』
――ジェイドと僕なら、
『……君ではフォミクリーの完成は無理だ』
完成させるべき指針が無い
ジェイドハテンサイ
『認めろジェイド。お前は失敗したんだ』
ボクトジェイドナラ
『……人間って怖いな』
『強い力は』
『そうだ、師匠がやれって!
誰も教えてくんなかっただろっ!』
――人を不幸にする事も在るの。
「………………」
ジェイドは薄暗い艦橋で嘆息した。
「……もし、この上自分の正体を知ったら……」
――彼は、私を殺しに来るのでしょうか。
+ + + + +
薄紫の空気と雷鳴が轟く泥の海の世界。
魔界をタルタロスは進んでいった。
2:12 2010/05/28 Fin.
タイトルひねりが無いな!(スマン思い付かなかった)
ルークから離れて行った後の彼ら。
アニスは泣くかどうか実際の処は不明ですが、ナタリアは号泣して七年間やってきた事をリセットする事になるんだと思う。
(そんでアッシュが出て来て事態がマタややこしくなる訳だ)
ティアは付き合い浅いのと今は兄さんの事の方がズット気になるので、ルークの事は(充分薄情だが)存在を忘れる程度。その分修復も早い
ガイは長髪IFではこのあと一エピソード在ってヤッパ見捨てられないな〜〜、ってな展開。
ジェイドはルークに過去の自分を重ねてイルそうで……。
オリキャラが少ーし混じった微妙IFに成っております。
(設定としてはジェイドの研究の矛盾を指摘した事でホドに飛ばされて、その指摘された矛盾を無視しようとした事もジェイドが事故を起こす原因と成った。ってカンジ)
11:54 2010/05/30