とっぷ壊殻の海ノ物語

21:26 2008/12/09

 ――何処からか泣き声が聞こえてくる。
 『…ぁん。
  あああん』

 何故泣いているの??
 いったい何を、伝えようと言うの?
 『えぇえん……』

 苛々と耳障りな音。
 私の御魂に触れないで
 私の心に触れないで
 『あぁあん…。
  わぁん……』


 聞かない 聞きたくない 聞こえない
 私は居ない 私は消エタイ……

 『うぎゃあ わぁああ うわあぁ ぎゃあっ!!


 ひときわ大きく 時空を揺さ振る
 次元の渦さえ 変貌を 始める
 『……あの子は何なの??』
 ――ただの子供さ。
 『ただの子供に、願い〈わたし〉を止める力が在るの??』
 ――人の願いは、時に形ならぬものと成って現れる。
 命の力は、例え虫だろうと子供だろうと、世界を作り変える力と成る。
 『……』
 ――星が。

 「ただひとつの星が、泣いている……」


  +  +  +  +  +

 ……私は生きてなんか居たくないの
 「嗚呼」
 ……無くなりたいの。
 何もかも何もかも 存在していて欲しくないの
 「……嗚呼」

 「――どうして?ラヴォス。
  何を聞かせるの??」
 「……私の遥かな跳躍のため。
  ――我々種族の、未来のために……」


  +  +  +  +  +

 引き裂いた星が鳴いている。
 ――奏でよう。
 終焉の悲鳴と、妙なる歌を。
 「宇宙の海は、永遠の深遠。
  ちっぽけな命は、藻屑と成って消える」
 ――けれども消えたと、言う事は。
 「母なる宇宙〈うみ〉と、ひとつに成る……」


  +  +  +  +  +

 ……彼女〈サラ〉は何時の間にか泣いていた。
 嫌……私消えたいの。
 宇宙〈せかい〉とひとつに成りたいんじゃ、ないの
 『その先の無にしか、お前は行けない』
 『違う……私は世界〈すべて〉から、切り離されたいの』
 もう二度ともう二度ともう二度と。


  +  +  +  +  +

 ……深遠が彼女を包んでいる。
 もう何も見えない。
 聞こえない。
 (そうよ……それでイイのよ。『私』は)
 満足した後、瞳を開ける。
 足が地面に着いていた。
 目の前にその子の、死体が在った。

 (……)

 動かない四肢は何も通わず。
 心を抜き取られた瞳のそば、涙の跡と、――恐怖の陰。

 ――どれだけの思いで 失ったのか
 ただ泣きまくった 訳も分からずに


 『…その歳で嗚呼、自分の身に起こった事の「理解」は無理だ。
  ――それでも魂は知っていた。全ての命が、遠い昔から繰り返し続けていた事だものね』

 ――遠い昔に。
 『私はああやって、死んだんだよ……』


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