とっぷ壊殻の海ノ物語

遠い彼方の近く。

 『ロボのバカ、バカ! 悲しい時は素直に悲しむのよ!! コッチが余計悲しくなっちゃうじゃない!!』
 そう言って泣き崩れた少女が居た。
 『そんな思いやりの気持ちを教えてくれたのもルッカデス。とてもカンシャしてイマス』
 そう言った回路は、データは、自分の中に――確かに、在る。
 けれど――……

  +  +  +  +  +


 ワタシも未来で元気にやっていきマス。
 ――そう言った時、彼女は笑わずに表情を曇らせて俯いた。
 ヤハリ気付いていたのデスネ。
 「ロボは廃墟と成った未来で生まれたわ……。
  新しい未来では、ロボの存在は……」
 ハハ、そんな事無いデス。そう言った自分を彼女はなじった。
 「バカ、バカ! 悲しい時は素直に悲しむのよ!! コッチが余計悲しくなっちゃうじゃない!!」
 叩いて、大粒の涙を流して、その場に座り込んで。
 ――アア。
 「そんな思いやりの気持ちを教えてくれたのもルッカデス。とてもカンシャしてイマス」
 「涙は似合わないわ。ルッカ……!」
 新しい未来でも、ロボはきっと。
 ――そう言って、そう言われて――……
 やっと、彼女は笑ってくれた。

 最後の記憶。
 サヨナラもまたねも言わなかった、最後の出来事。

 ――記録でなく、『記憶』――……

  +  +  +  +  +


 ……ガシィィッ……。

 まず最初に、自分の足が床に着く音が聞こえた。

 「……ココハ……?」
 幾らかの自己機能チェックを終了させてから、見回す。

 薄暗い。

 「プロメテ……ドーム」

 ドン達とは、違う世界に出てしまったのだろうか。
 其処は彼が――

 ――彼が、そう彼が『過去』へ旅立った時、
 そのままだった。
 「……」

 扉を開けると、空間〈スペース〉が在った。

 床には、ルッカが自分を修理する際に外した、壊れた部品や細かな導線の切れ端などが、無造作に捨てっ放しになっていた。

 コイツ、部屋片付けないんだぜー。

 何よ! レディの部屋に勝手に入んないでよね。

 集音装置の奥の奥。
 再生機能は、無い筈なのに。

 「クロノ……ルッカ……」
 造人はひとり、呟いた。
 「ワタシは……昨日に……。
  ……帰ってキマシタ……!」

 自分の居る未来は、廃墟。
 新しい未来は、ジブンは居ない
 ジブンの居るミライは、ハイキョ
 新しいセカイは、ジブンは


 ……ガシャン。

  +  +  +  +  +


 ワタシは生きています ルッカ
 何も変わらなかった未来で るっか
 ワタシハ生キテイマス るっか
 何モ変ワラナカッタ セカイで


 ――時に、A.D.2300年。
 破壊の神、大災害の原因『ラヴォス』は、自らの分身を生み、地上から宇宙への旅立ちを準備させる真っ最中だった。



































 コツ、コツ、コツ、コツ……

 集音装置が、ほんの少しずつ大きくなっていく音を収集し始めた。

 どうだぁーー?? 異常無いかーー??
 ほんの少し反響する。

 (ヒトノ……声??)

 彼は軋んでいる体を動かした。
 「ウッ……」
 長い事静止していたせいだろう、関節のあちこちが、かなり宜しくない。
 (ズット……機能停止??)
 (システム冬眠状態……その間、ボディにメンテナンスの入った経歴は無シ)
 (…………)
 データが電子頭脳の中の闇でチカチカ鳴っている。

 光の舞……確か、クロノ達が彼らの時代を案内してくれた時に、話さなかっただろうか。
 『千年祭の最後はねぇ、ドカーンと一発、花火が上がって……』
 『ハナビ??』
 『えーっとねぇ、ひゅーんて上がって、ドッカーンって綺麗で……』
 分からないよ、マール。
 両手を広げた彼女を、クロノはクスクス、笑って言った。
 『そうよね、実際に見た方が、早いわよね。
  お父さんが、試作品に作った奴が在るから……』

 こっそり持ち出して、上げちゃおう。

 (ルッカ……?)

 ――記憶回路の、故障だろうか。
 自分達が四人以上居たのは、その時代では、無い筈だ。

 『リーネ様にも、見せてやりたいな。』
 『打ち上げ?? ハナビ?? 面白そうだ!!』

 『……フン、下らん。
  時間の無駄だ……』

 重なる彼ら、一人の声。
 何時の時代?? いや……
 『何処』での出来事??


  +  +  +  +  +



 メディーナからトルースに来た後だった気がする
 原始の石で 剣を修復したアトだったキがスル
 フブキの地を 追い出されてしまった時だった気がする
 まざーヲ止メ あとろぽすノチンモクシタ あの日だった気ガ……

 がしゃがしゃがしゃ。
 金網を誰かが通ってくる。

 「何だっ? あれはガードマシンかっ!?」
 先頭の男が、声を上げる。
 「ボロボロだな……。
  ――って事は、暴走マシンか」
 別の一人が、剣のような物を構える。

 気を付けろよ……。
 どんな攻撃をしてくるか、分かんないからな。

 ――嗚呼、と先頭の男も武器を構える。
 ピリピリしている。
 ――戦士特有の。
 (……?)

 ちかちかチカチカ。
 信号が走っている。

 「クロ……ノ?」
 彼は咄嗟に、
 声を発した。

 小さな声を。

 「むっ……」
 二人の男と、もう一人、別の武器を持った男が身構える。

 場馴れしているとは、言えない顔だ――取り敢えず戦った事は、在るのだろう。
 それでも歴戦の勇士と言うには程遠い、新米の兵士か、それに毛の生えた程度のものだ。
 けれど――目が。

 何かに挑もうとする気迫が。

 何かのために、戦おうとするその眼が――……

 「…………」
 ――彼に、不思議な懐かしさを思い起こさせた。

 『アナタ方は……。
  このセカイを、変えると言うのデスカ……?』

 私達の力で、何処まで出来るか分からないけど……ね。

 ――何故、こんな時に鮮明に聞こえてくる??

 『そんな事を、訊いたのは……』


 ヘケランの居る 洞窟を抜けた
 薄暗い森を 城を走った
 溶岩のそばの 魔城に行った
 天空の山で 誰かと会った

 イツモ イロンナ ヒトガ居て

 イロンナ 仲間ト 何処かへ行って


 ――組み合わせは、幾つ在った??

 色んな時を、色んな時代を、
 幾度も幾度も、
 繰リ返シタ……?


 世界の運命を揺さ振るくらいに。

  +  +  +  +  +


 ガガガッ……と、その二足歩行ロボットはノイズのような声を発した。
 「……何だ??」身構える者が、顔をしかめる。
 ア……ナタ。
 「アナタ方は……ナゼ……此処に??」
 たどたどしい声で、問いを、発する。
 ……、と男達は一瞬戸惑った顔を互いに見合わせた。

 「二年ほど前から、我々のドームにおける人口許容量が問題に成っていた。
  こちらのプロメテドームが無人である事を聞いて、移住しに来たのだ」
 「イ……ジュウ??」
 聞き返したそいつに、男が驚く。
 「ドーターから、何も知らされてないのか??」

  +  +  +  +  +


 そのロボットは、いきなり電源が落ちたコンピューターのように沈黙した。
 「……」男達がまた戸惑ったように、お互いを見合い、困惑する。
 「ドーター……ジェノサイドームの兵器製造システムをアリスドームの情報交信センターから操作出来るよう、また各地ドーム間の連絡を迅速に行えるよう、A.D.1900年代に製作・設置されたマザーブレインの端末……」
 「あ、嗚呼。そうだ」いきなりスラスラと喋り出したのに振り向いて、曖昧に頷く。

 「ドーターが……マザーが、まだ、動いていると言うのデスカ??」

 男達は、三度目の顔合わせを行うと、
 「……やっぱり、知らされてなかったんだな」、とそれぞれの構えを解き武器を仕舞った。

 「今は……ナンネン……」
 「2310年だ。
  このドームのドーターには、十年ほど前から交信を続けていた筈だが……」

 ――十年。

 「ソウデスカ……もう、十年も経っていたのデスネ」
 彼は俯き、呟いた。
 ……? とまた男達が顔を見合わせる。

 何だ、コイツ……?
 やっぱり、壊れてるんじゃ……


 ――何年も。

 何年も、動いていなかった。

 「ワタシは……」


 「――おい、大丈夫なのか?」
 男が問う。
 「入り口で待ってる奴ら……奥に入れて、いいのか?」

 ……ハイ。

 短く、彼は頷いた。

 「ワタシは、このドームの警備及び作業用に配置されました、R−66Y……」
 「おーい! 入ってきてもいいぞぉーーッ!!」

 ロボットの言葉に背を向けて、男達が『住民』を呼ぶ。

 どよどよ。
 ガヤガヤ。

 数十人もの老若男女が入ってくる。

 ――ニギヤカデスネ。
 そりゃ千年祭、最後だからね。

  +  +  +  +  +


 『……ハナビ、見られませんか……』

 『うん……。
  ゲートがそれまで、持ちそうにないみたい』

 ザンネン、とエイラ。

 『付け足さなくても、俺達の思い出はいっぱい在るさ』とカエル。

 ……。

  +  +  +  +  +


 「ダイジョウブ……あの時見せてもらった、それだけで、充分ステキなモノだと分かりましたから」
 「……うん」
 「構造と成分はインプットしました。
  何時か、未来でも、同じ物を製作出来ると思イマス」
 「うん……」

 ――大勢で見ると、『ステキ』なのですね?
 ――そーよぉ。
 ドーンて上がるの、みんなで見るの!

 『了解シマシタ。マール』

  +  +  +  +  +


 ズット……何かを守ってた。

 『未来』は変わってないけれど――……

 此処が新しい住処? ええそうよーぉ。

 おーい! 荷物入れるぞ、手伝ってくれーえ。


 ……帰ってきた。

 とても近くに。



 遠い彼方の、彼を失っていた場所が。


  Fin. 23:33 2008/12/02 10:09 2008/12/06 19:48 2015/01/21

 『アクセル』の設定が入ってマス。
 外伝の外伝って……何伝なんだろウ(汗)

 鬱展開:ジリジリとイイ方向に向かってHappyEndで終わりなんだケレド、
 芋虫の歩み過ぎて良クなってる実感が湧カナイかも。
 最後自己紹介が無視されてるシね。(滝汗)

 花火の事:書キながら思い付いたOriginalですが、
 まーラヴォス戦と同じく何時でも出来るイベントだった、――と、ユー事で。
 『クロノ』は何週でもプレイできるゲームだったりスルので、
 其の都度違う場所・違う仲間とのコのエピソードが存在する。
 ――ソレが全て、彼の中に入る……
 『トリガー』ならではノ手法ですかね。
 (そしてアクセルでのロボの方向性が固まりツツある。
  花火師か……)

 未来と未来:新しい未来では新しい存在としての「ロボ」が生まれてくるだろウけれど、
 前の世界のロボはヤッパリ前の世界に戻ってしまう、と言ウのが未夏夜の支持説。
 ソレデモ本当に「前」と同じと言エルのか、それは――……

 言わぬが花、ッて事で終ワリ。

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